鬼の生き様

 時は流れ、文久元年(1861年)八月二十七日。
武蔵総社六所宮近くの東広場には大勢の人達が集まっていた。

 太鼓の音が鳴り響き、会場は熱気に包まれている。

「なんで私は出ちゃいけないんですかァ」

 免許皆伝を納め、塾頭となった沖田惣次郎は、勇が四代目を襲名するにあたり名を、沖田総司と改めた。

「…お前は強すぎるから」

 勇はそう言うが、あまりにも小声で口籠った話し方をするから総司には伝わらなかった。
甲冑を着ていて話しづらいのである。
本陣総大将として勇は、床几に座り甲冑を身に纏い戦国武将さながらの威風堂々とした姿をしている。

本陣鉦役の源三郎は優しげな面立ちを浮かべて「惣次郎は強すぎるから、らしいぞ」と総司に伝えるのだが、総司は頬をぷくりと膨らませて、
「源さん、惣次郎じゃなくて総司です!」
と、完全に不貞腐れていた。

「じゃあ、三試合あるから最初だけ総司、出てみるかい?」

近藤周助改め、近藤周斎(しゅうさい)は総司にそう言うと「はい!」と嬉しそうに軽快な返事をした。


 紅白に別れて、歳三や正式に天然理心流に入門した山南は紅組となり大将は、小島鹿之助のはずであったが、体調を崩したらしく、箱根へと湯治に出て参戦出来なかったために、萩原糺(はぎわらただし)。

 白組は大将は歳三の義兄の佐藤彦五郎。
そして源三郎の兄の井上松五郎たちが陣を固めている。

 額につけた土器(かわらけ)を割られたら、幕へと引き下がっていく決まりが設けられた。

紅組は三十六人。
白組は鹿之助不在の為に三十五人となり、総司が白組に加担する事となった。

 永倉は「いやぁ、見事な風景だ」と総勢七十二人の義士たちを見て感心していた。

「永倉、君も総司が戻ってきたら白組で参戦したらどうだ」

周斎はそう言うが、出たいのは山々だが、永倉は首を横に振った。

「いやぁ、天然理心流の門人では私はないので…血は騒ぎますがね。
総司の代わりに、この試合は鐘役を務めさせて頂きます」

 暫くして勇は立ち上がると軍配を上げた。
永倉の叩く太鼓の音がこだまし、源三郎の鐘が鳴り響いた。

試合開始である。

「皆は攻めまくって敵を総崩しにしろ!
俺は萩原大将を守る!」

 歳三はそう叫ぶと、山南を筆頭に紅組はワァッと白組に斬り込んだ。
総司達も負けじと、八王子千人同心の源三郎の兄である井上松五郎らと一斉に攻め込んだ。
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