鬼の生き様

襲名披露


 九月三十日。
 武蔵総社六所宮で天然理心流献額の神事があり、歳三は型試合を披露をした。

 ここは毎年、歳三の生まれた日あたりに行われる〝くらやみ祭り〟という例大祭がる。
もとは大國魂神社と称したが、中古以降、武蔵総社となり、又国内著名の神六所を配祀したので武蔵総社六所宮の社号を用いている。

 寿永元年(1182年)に、源頼朝が葛西三郎清重を使節として、その室の政子の安産の祈願が行われたりと、歴史は古く由緒ある神殿である。

「いやぁ、これはすげえや」

 近藤周助は目の前にある大金を目にし、驚いていた。
型試合での興行としての収入がいくらか集まったのである。

「なぁ、どうだい。
六所宮で今回やったんだ。
一宮から二宮、三宮と型試合をやっていきゃ、俺らも貧乏道場と呼ばれなくてすむぐれえの資金は出来るべ」

「義父上、それはやめましょうよ」

「そうですよ大先生。
ましてや、来る顔触れは大体、変わらないじゃないですか。
お金を出す我々の身にもなってください」

「じゃあ勇や鹿之助さんはどうしろっていうんだい」

「…地道にやってくしか無いんじゃ……」

「勇に同じく」

「全く、お前らの話はつまんねえなァ」

 周助はため息を吐いた。
試衛館の資金不足というのは、切実なもので、勇も周助もそれに関しては困ってはいたが、小島鹿之助の言う通り、顔触れは変わらない。

歳三は頷きながら言葉を発した。

「たしかに細々と型試合を行うと言っても、村人達は退屈をしちまうな。
大先生の言う通り一宮から六宮で興行を打っても次第に飽きがくる。
ふた月に一度で一年間、最初はいいとしても、年の瀬には人っ子一人来なくなるでしょう」

「歳三、何かいい考えでもあるのかい?」

「戦ですよ戦」

「戦?」

勇は魂胆の見えない歳三の提言に訝しげな顔をした。

< 99 / 287 >

この作品をシェア

pagetop