鬼の生き様
「それにしても中山道で行くなんて、東海道のほうがよかったんじゃないんですか」
総司はそう言いながら歩いていた。
東海道の河川等には架橋や舟渡しが整備されたが、川留めによる日程の狂いは避けられなかった。
それに対して中部山岳地帯を貫く中山道は難所も多く、冬は雪に見舞われ難渋を極める道中ではあったが、川留めがないとろから日程が立て易いのだ。
「中山道は東海道ほど障害も少ないからでしょう」
「それに俺達ゃ幕府から信頼されていないんだろう」
山南に続いて歳三はそう言うと、落胆したかのような表情を総司は見せた。
「現に見てみろよ。ゴロツキもいれば刀の持ち方すら知らなそうな連中だっている。
支度金狙いの奴らだって少なくないはずだ」
永倉はそう言いながら、左之助をチラリと見たが、左之助は何食わぬ顔で笑っている。
浪士達の尽忠報国の真の想いを揺すりにかけたのだろう、と試衛館で話になったが、それでも二百三十四名もの多くの浪士が集まったのであるが、十両も食い扶持浪人からしてみたら大金には変わりない。
「ただでさえ目立つのに、東海道を歩かせる訳ねえって事だろう」
一方、勇や池田、如水達は初日は四里三十二町(約20km)ほど進み、大宮宿に向かっていたのだ。
「道中先番宿割なんて引き受けるんじゃなかったよ」
池田は眠い目をこすっている。
疲れ果てて空虚な甘い気持ちになっているのだ。
「池田さん、だいぶお疲れのようですね」
勇は池田の身を案じ、如水も心配そうに池田に声をかけた。
「今日はゆっくり休みなさい」
「そうしたい気は山々なんだがね、佐々木さんも近藤くんも初めての事で気が気でないでしょう。
ましてや二百五十人もの大所帯の宿を取るとなれば、そう容易にできるものではない」
人の良い人物である。
勇は池田の気持ちを大切にしようと思い、大宮宿に着くと宿場の間取りをもらってきた。
一度、その間取りを見て人数を決め、一件一件泊まれるかの確認をするという地道な作業である。
「思いの外、大変な仕事なのですね」
勇はこの手の細々とした仕事は苦手だった。
池田がある程度決めてから如水が細かく振り分けるのを見て、軍師を見るかのような尊い眼差しで二人を見ていた。
勇は出る幕もなく、宿場の確認役へと回っていた。