鬼の生き様

 二百三十余名、無事に宿の振り分けが終了した。

「お疲れ様です」

「御苦労であった、これから次第に到着する浪士組の面々を宿へと案内して無事に終了するんだ」

初日でヘトヘトになりそうである。
歳三と山南だったらもっと円滑に進んでいる事だろう、勇はそう思った。

池田の眠気は限界に近付いていたが、もうここまでくれば最後の収容まで終わらせたいと思う男である。

 駕籠(かご)に乗っているものや、鎖帷子を背負う者、その異様な集団が大宮宿へと続々と集まってきた。

歩き疲れたから先に案内しろ、と我儘ばかり言う者も大勢いて、気を遣う仕事である。
無事に収容も済んだ。

 明日は鴻巣宿だ。
四里二十四町(約19km)ほど歩くのだが、清河は是非とも組頭以外の役付と酒席を交えたいと言ってきた。

断りたい気持ちは山々であったが、これから共に働いていく同志だ。

断る道理は無かったので、付き合ってみると中々の深酒で自分の宿場に戻る頃には九つ半(1時)程となっていた。

 次の日、清河や山岡をはじめ、勇達は眠そうな目をしていた。
道中先番宿割の朝は他の浪士達よりも早い。
酒をあまり飲まない勇は、前日の酒がまだ残っているのか二日酔いが酷く感じる。

「…鴻巣宿まで頑張りましょう」

その声に勇も池田も如水も元気が無かった。
ましてや池田は昨日よりもはるかに顔色が蒼白くなっていて、目の下にはくっきりと隈が出来ている。

寝不足からの深酒がよほど身体に応えているらしい。

 鴻巣宿の宿割は昨日よりも円滑に進み、勇もようやく手順を踏まえ理解したかのように宿割に参加出来た。
宿割が済むと、清河がやって来て、またか。と勇は落胆の表情を見せたが、「今宵は昔からの同志と呑みたい」と言ってきた。
昔からの同志とは池田達の事である。

池田は断る事が基本的に出来ない人物だ。

渋々ながらも清河に着いて行く。

「明日は本庄宿に着いたら、真っ先に池田さんの部屋をとって休んでいただきましよう」

勇はそう言った。
仕事の流れもある程度は分かったから、池田を休ませてあげることが勇からしてみれば一番の孝行だと思った。

「うむ、それが良いじゃろ」

如水も勇の提案に賛成をした。
流石に二人も寝不足だ。
明日は九里二十二町(約38km)も歩く日程で、およそ半日はかかるだろう。

この日は早くに就寝し、翌日に備えた。

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