鬼の生き様


 本庄宿大篝火の一件から、芹沢は

「そこまで乱暴狼藉を働くならば、俺は一人で江戸へ帰る」

と山岡に言われ、芹沢も山岡がいなくなってしまえば浪士組はまとまらなくなると思い、それに懲りて大人しくなったのだが、三番組頭から六番組頭となり、それに代わりとして山南が組頭を請け負う事になる。

しまいには芹沢は組頭からも外されてしまい、山岡達の目が行き届くようにと道中取締手附という役になった。
ここには荒木又右衛門の再来と呼ばれる水戸の芹沢とは同郷である粕谷新五郎もいた。

 祐天の子分達も芹沢という癇癪玉に触れてからは大人しかった。

しかし一人の男は、それらとは対照的に傍若となっていった。
もともと粗暴な性格だったが、芹沢や祐天によって目立たなかったものが目立つような形となって現れたのだ。

その男は清河と虎尾の会からの同志である村上俊五郎(むらかみ しゅんごろう)という男である。

「貴様らの組頭の素行が悪くてたまらんわ」

こういう叱言を水戸一派の新見や平山達ではなく、人当たりのよく優しそうな面立ちをしている山南にばかり、ネチネチと執拗に言ってくるようになった。

「隊の規律を乱さぬように、しっかり見とかんかい」

「すまないが、私達は規律を乱すような事をしていない」

「あの篝火だって、お前の組頭の芹沢鴨が起こした事件ではないか。
今やその隊の組頭となったお前が起こしたものと同じだ」

歳三は我慢出来ずに目釘を湿らせた。
(あん野郎、仲間を馬鹿にしやがって)
殺気に気が付いたのか、山南は歳三を制止させたが気が済まない。

もう草津に差し掛かる頃、問題もなく京への旅路が終わるかと思っていたにも関わらず村上はわざと怒らせるように息巻いている。

「芹沢さんの一件は、我が試衛館の近藤勇先生が収めてくれた。
なにもあんたがぶり返す必要はない」

歳三は試衛館の近藤勇という名前を強調しながら、語気を強めて言った。

「あの時、腹でも切ってればよかったものの、田舎侍だから切腹の仕方もわから…」

村上が言い終わる前に、首には白刃が突きつけられていた。
あと僅かに動けば頸動脈を断ち切っているだろう。


< 154 / 287 >

この作品をシェア

pagetop