鬼の生き様

天鵞絨の嚢



 清河に大反論をした後にようやく遅い朝餉を済まし、左之助が立ち上がった。
試衛館の時から飯を食った後は寝転んでいる左之助のいつもと違う動作に「どうした」と一同はてなが浮かんだ。

「馴れない京の味に腹でも当たったか?」

永倉は左之助をからかうように言った。
壬生菜の漬物は江戸にはない野菜であった。
京菜の変種で、色が濃緑で荒っぽいが、噛めば噛むほど歯ごたえがして柔らかくなってくる。

「いや食いモンは全部旨えよ。
優雅な味がするじゃねえのか」

「お前に違いが分かるのか?」

思わず歳三は左之助に訊いたが、左之助は得意げに、知らん。と言った。

「せっかくよ、この優雅な京に来て俺たちゃ晴れて自由の身になったんだ。
家でグータラしてるだけじゃ、何も変わらねえじゃねえか」

「たまにはマトモな事を言うじゃねえか」

歳三はそう言うと、左之助はうんうんと頷いた。

「御所でも見に行こうぜ」

左之助の提案に、総司と平助は乗った。
永倉も無論、拒む事もなく「いい考えだ」と言うが、「帝の在わす御所の見学というのは無礼にならないだろうか」と山南は不安げに言うが、豪傑かつ大胆な左之助は、

「細けえ事は気にするなよサンナンさん。
近藤さんが大名となって、住むことになるやもしれん御所の視察というのは、今後にとっても大事な事さ」

勇は単純な男で〝大名〟という言葉に素直に喜んだ。
歳三も、「面白い」と同調しさっそく御所の見学を行なった。

「思ってた以上に広いんだな」

永倉は言った。
一体、御所を一周するとなれば如何程の時間を要するのかも分からないほど、京都御所は広大であった。

誰にも聞かれないように話すために、見学中に歳三は勇に忍び寄った。

「近藤さん」

「どうしたい?
それよりトシ、近藤さんって改めて呼ばれると、こそばゆいなァ」

「土方だ。
俺達ャ武士になったんだぜ。
いつまでも多摩の百姓のまんまじゃいけない」

「でもトシはトシだ」

「俺達がガキの頃から目指してきたものにようやくなれたんだ。けじめはつけようじゃねえか」

勇は困惑した表情を浮かべたが、あぁ、そうだな。と頷いた。

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