鬼の生き様


__清河が殺された。

 清河暗殺の急報を受けた山岡鉄舟は、即座に義弟であり清河とは同志である石坂周造を呼びよせ、清河が所持している同志の連判状と清河の首級を奪ってくるように命じた。

 石坂周造が麻生一の橋に着いた頃には、すでに町役人が警固し、検視の役人の到着を待っている状況であり、清河の死体には近づくことは容易ではなかったのだが、そこで石坂は機転を利かせひとつ芝居を打った。

「もはやこの男は…」

と訊ねてみると、町役人は「清河八郎だ」と答えた。

石坂周造は鞘を払って清河の亡骸の元へと向かった。

「やっと見つけたぞ!
長年探し求めた不倶戴天(ふぐたいてん)の敵、清河八郎め」

と怒声をあげ、瞬く間に清河の首を斬り落としたのだ。

それを見た町役人が慌てて駆けよると、周造は血で染まった刀を振りかざして睨みつけ、「俺の仇討ちの邪魔をするならば、貴様らもまた敵と見なして、皆殺しにして刀の錆としてやるぞ」と町役人を威嚇をした。

石坂の形相の凄まじさに町役人が引き退がると、清河の懐から瞬時に連判状を取り出して逃奔した。

 こうして無事に連判状と首級は鉄舟の手元に渡った。
もしもこの連判状が幕吏の手に渡っていたならば、山岡鉄舟ら清河の同志は捕縛され、清河の首も晒し首となっていたであろう。

その後、清河の首級を奪おうとする狼藉者もいたのだが、山岡鉄舟と山岡の妻の英子、高橋泥舟、石坂周造、山岡の末弟である小野飛馬吉らの保護により掠奪を免れ、後日に浪士組結成の際にごった返した回天の地、小石川の伝通院に埋葬された。

 清河亡き後、歳三ら京都残留組の浪士組とは別に、江戸に戻り沖田林太郎や祐天仙之助らが参加していた浪士組は、新徴組と名を変え、江戸の治安維持にあたることになる。


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