鬼の生き様


 歳三達の地道な隊士募集の反面、芹沢達の金銭要求は京坂の商家を困らせていた。
何より芹沢鴨という男、すこぶる乱暴者で首を素直に頷かなければ店を壊し暴れるのだ。

そんなある日の事である。
四月二十四日、この日も芹沢は仲間達と酒宴を開いていた。

居酒屋には一人の風流男がいた。

(どこかで会った顔だなァ)

芹沢はその洒落者を見て、誰だったかを思い出す。殿内義雄を四条大橋で暗殺する直前から行方知らずとなっていた家里次郎だ。

「家里くんではないか」

「せっ…芹沢!」

家里は顔面蒼白にして芹沢を睨みつけた。
もう芹沢にとって、殿内殺しも過去の出来事である。
しかし家里にとってはそうではない。
芹沢が殿内を斬った時、家里は用を足していて殿内から少し離れていた。
しかし殿内が斬られる顛末を目撃し、家里はその場から逃げたのだ。

「おのれ芹沢、殿内を殺しよって」

そう言い鯉口を切り、じりじりと詰め寄ってくる。

「何を申すか家里くん。
元をただせばお主らが、我等を裏切ったのが発端であろう」

「裏切りも何も、我等は何も知らん」

旨い酒が不味くなった。
芹沢は家里を常安橋の会所へ連れて行き


「何もしていないというならば、逃げる必要はどこにあったというのだ。
武士の情けで腹を切らせてやろう」

と半ば無理矢理、腹を切らせてしまったのである。

享年二十二歳。
切腹の傷は浅かった。
芹沢は勇を常安橋会所に呼び出し、息を引き取った家里との再会を果たした。

(こうなったのも全てはトシが仕組んだ事。
なにも家里さんが死ぬ事はなかった…)

勇はまたもや出てしまった京都残留以来の同志、家里次郎の死を悔やんだ。

(トシが殺した即ち俺が殺したという事だ)

この一件は歳三にまた苦悩を与えるだろう、勇は日野の佐藤彦五郎に手紙を送った。


『段々と尽忠報国の同志が集まってきましたが、いまだに浪士組の編制、取締役などができていなかったので、水戸脱藩浪士の下村嗣司(しもむらつぐじ)改め芹沢鴨と言う人が、私と二人で同志たちの隊長になり、すでに同志のうちで失態などを犯したものは、速やかに天誅を加えました。
以前、同志の殿内義雄と言う人を、四月中に四条橋の上で討ち果たしました。
また家里次郎と言う人も大坂で切腹しました』

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