鬼の生き様


 部屋に戻った芹沢達は再び酒を飲み交わしながら、先程の乱闘なんてまるで無かったかのように振舞っていたが、山南や総司達、試衛館の一同は陰鬱な表情を浮かべていた。

勇と源三郎が戻ってきたので、山南は事の次第を話すと、勇は深くため息を吐いた。

「山南さんが居たというにも関わらず…」

「面目無い…」

この知らせを受けた勇と源三郎は呆れ返りながらも、騒動の顛末を大坂東町奉行所へ届け出た。

 また、力士たちがその日のうちにでも復讐を企てることは十分考えられる。

もし壬生浪士組の屯所に力士たちが襲うことがあったら、ことごとく容赦なく斬り捨てるので、あらかじめご承知願いたい、と勇は届出書に付け加えておいた。

しかし、この勇達が届出書を提出した大坂東町奉行所とは別の、力士達が八角棒を借りに駆け寄った大坂西町奉行所の内山は

「あまりに一方的な言い分過ぎる、力士達が一方的に暴れる訳はあるまい。
徹底的に近藤勇を調べ上げる!」

と勇を尋問にかけたのである。

「報告した通りでござる」

「そのような戯言で我等が欺けるとでも思うのか?
芹沢鴨なる狼藉者が、一方的に斬りつけたのであろう」

内山の尋問は異常で、挙げ句の果てには

「京都守護職やらなんやら知らんが、大坂の治安はワシら大坂西町奉行所の我等が守る。
早よ神聖なる大坂から、いや天子様のおわす京から去ね!」

と怒鳴り狂う始末。
内山の態度に腹を立てたが、今回の力士の件は確かに無礼打ちとは言え、後味の悪いものであり、勇はその日のうちに小野川部屋に訪れ、熊川熊次郎をはじめ三名の亡くなった力士達に線香をあげた。

「近藤はんもうこの事は今日でおしまいや。
後腐れなく、喧嘩両成敗という事で堪忍しておくんなさい」

「…申し訳ありません」

誠心誠意を込めて頭を下げる勇の姿に、小野川は感心したように頭を下げた。

寛大な小野川の性格と勇によって、こうして大坂力士乱闘事件は幕を閉じたのである。

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