鬼の生き様
第五章

美男美女


「お客様でございます」

 文久三年(1863年)七月のある日の事である。
壬生浪士組の屯所に四人の客がやって来たと、平助が歳三と勇に伝えにやって来た。
屋敷の中から門を見てみると拵(こしらえ)は皆、普通よりも長い打刀を帯びている。
ここらではあまり長刀を帯刀している者は居なく、長州と土佐の者が長刀を好んで使っているのは周知の事実だ。

「あの風態、長州モンじゃねえか?」

歳三は訝しげに四人の姿を見た。

「どんな要件で来たんだ」

「どうやら、入隊希望らしいです」

歳三はそれを聞くと、いつでも斬れるようにと目釘を湿らせ四人を見たが、勇は「とりあえず話を聞こうじゃないか」と言ったが、少し間を空けて不安そうに

「万に一つだが、間者だったらどうすんべ」

と聞いた。

「泳がせてみるのも悪くねえな」

なるほど、としたり顔で勇は笑った。
こんな日に限って芹沢はなにやら朝から平隊士の佐々木愛次郎を連れ立って出ている。
平助に新見を呼んでくるように命じ、揃ったところで勇と新見の局長二人と歳三、山南の副長で四人を客間へと通した。

「私が壬生浪士組局長、近藤勇です」

勇はまず挨拶をすると、それに続き新見、山南、歳三と続いた。

「御倉井勢武(みくらいせたけ)であります」

「荒木田左馬之亮(あらきださまのすけ)」

「越後三郎(えちごさぶろう)」

「松井竜三郎(まついりゅうさぶろう)」

四人の客人は名を名乗ると、この日訪れたわけを話し始めた。

「われわれ四名は、長州の者でありますが、議論の相違から脱退してきたのであります。
聞けば壬生浪士組は、会津候とともに勤王のために奉公されておられるとのこと。
われらと志は同じとお見受け申した。
ぜひ我々を壬生浪士組に加えてもらいたい」

御倉井勢武は四人を代表してそう言った。
やはり思惑通り、長州の人間である。

(やはり間者か)

勇は長州という言葉にピクリと反応して、歳三を見た。

(面白えじゃねえか、泳がせてみよう)

歳三は悪巧みをする悪童な笑みを浮かべた。

「私は仲間に加えてみるのも悪くないと思う」

そう言いだしたのは勇ではなく、間者覚悟でこの四人を、入隊させる事を知らせていない新見であった。

「…うむ。それならば、歓迎である。
我等は身分を問いません。
同じ志を持って尽忠報国の御為、働きましょうぞ」

勇も新見に続き承諾すると、歳三は島田魁に「今日、四名の同志が増えた。案内してやってくれ」と前川の屯所に案内させ、その背中を見送って歳三は、永倉に「秘密裏だが、奴らは長州の間者やもしれん。油断するなよ」と小声で囁いた。

勇は四人に国事探偵方という任を与え、門限は自由、出入りは自由とし隊の制服新調料として金子百両まで与え、この特別待遇に四人はとても喜んだ。

「へへっ、近藤っていう男は案外ちょろいじゃないか。こんなに簡単に入り込めるとは」

「おい、言動には常に気をつけろ」

そして、諸士調役兼監察の任に就いている島田に歳三は「四人から絶対に目を離すな」と命じた。

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