鬼の生き様


 そんな騒動から一ヶ月が過ぎ、愛次郎が非番の時に香具師の男と偶然再会したのである。

「あなたは!」

ろくに礼も言えなくて、香具師はあれからずっと気にしていたのだ。

「あぁ、あの際はご迷惑かけて申し訳ありませんでした。
鳥達も無事で何よりでした」

愛次郎はニコリと笑うと、八重歯がちらりと見えて、それがまた男も惚れ惚れとするような役者のような面立ち。

二条に八百屋があるのだが、そこは香具師の親戚の家である。
ちょうど今から出向かう所であったのだが、香具師は愛次郎に是が非でも礼がしたいということで、八百屋へと連れて行く事になった。

「あら伯父さん。いらっしゃい」

出迎えたのは愛次郎と年端の変わらぬ町娘だったのだが、その娘は色の白い百合の花のような美しい女性であった。

「あぐり、実はなこの御仁は…」

かくかくしかじかと、あぐりと呼ばれた美女に見世物小屋での顛末を語り、恩人であるとしった愛次郎を家へとあげてもてなした。
この、あぐりという女性は美しさでは近所で敵うものはいない程の気立良し器量良しの才女である。
年は愛次郎より二歳年下の十七歳だ。

__佐々木愛次郎とあぐり。

運命の出会いを共に感じ取った瞬間であった。

 意外にも愛次郎は、女というものを知らなかった。
いざ、あぐりを目の前にすると何も話さなくなってしまい、あぐりもまた、愛次郎を目の前にすると頬を染め口数が少なくなった。

「ほほう、これは良縁かもな」

香具師の兄で、あぐりの父である半次郎は二人の様子を見守っていた。
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