鬼の生き様

「邪魔者もいなくなったし、あぐりちゃん。
ようやくわての女になる日がきたで」

そう言い佐伯はあぐりを抱きしめた。
ずっとこうしたくてたまらなかった佐伯は、目の前には最愛の愛次郎が死んでいるにも関わらず、何も気にした様子もなくあぐりを押し倒した。

(狂っている!)

あぐりは腹の底から憎悪が生まれ、その腕を振り払おうとするが、佐伯の力にか弱いあぐりが敵うわけがなかった。

「ずっとこうしたかったんや」

佐伯はにやにやと下品に笑いながら、あぐりに顔を近づけた。

あぐりの唇と重ねると、想像していた以上に柔らかい唇が、佐伯のゴツゴツとした唇に吸い付く。

「んっ…!」

あぐりは必死に抵抗をするが、佐伯の暴走は止まらない。

「…あっ、やめて!」

あぐりは泣きながら叫ぶが、恐怖で身体はがくがくと震えて動くことが出来なくなってしまっている。

「お月様に照らされて、綺麗やで」

あぐりの恐怖と辱めに満ちた表情は、佐伯を興奮させた。

「ほらほら、愛次郎ともしていたように、わても気持ちようしてや」

__気持ち悪い!

あぐりは何も言わずに泣きながら、首を横に振る。

「早よせいや」

佐伯はさらにあぐりに暴行を加えようとした時に、突然あぐりは吐血をし、咥内から血が溢れ出した。

「!?」

佐伯は思わず飛び退いて改めて見てみると、あぐりは絶命していたのだ。

自分で舌を噛み切り、自ら命を絶ったのである。

佐々木愛次郎、十九歳。
あぐり、十七歳。

愛し合った若い二人は、きっと極楽浄土で結ばれた事であろうと信じたい。

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