鬼の生き様

島田は舌打ちをしながら、河上の背中を睨みつけた。

「あいつは肥後の河上彦斎っていう男だ」

「あいつが〝人斬り彦斎〟…」

「間違いねえです」

「河上彦斎か、覚えておこう。
肥後なら、やはり流派は伯耆流か。
しかし似ているが、型がまるで違う」

歳三は目をこすりながら、そう言った。
 河上彦斎の剣術は自己流であろう、伯耆流はそもそも片山伯耆流という片山久安という人物が開祖であったが、片山家が仕えていた岩国藩と、その隣にある長州藩で盛んに取り入れられていたが、肥後藩の星野角右衛門や星野龍介なる者が数日間、宗家の片山伯耆流に武者修行へと赴き、伯耆流星野派が開かれた。

肥後藩にもよく伝わっている居合道であるので河上もその伯耆流星野派を学んだのであろう。

 島田は御倉や荒木田が入隊してから、歳三に言われた通り、目を離さず監視をしていた。

「一人討たれたか……」

歳三は唇を噛み締めた。

(俺の名前を知っていた。
目的は俺だ…俺のせいで殺されたのか)

「楠小十郎と肥後訛りが特徴の、浪人が祇園の登楼で会っている事が調べで分かりました。
その浪人こそが今の河上彦斎です」

「そうか、御苦労だった」

歳三は目を伏せた。
まさか、こんなにも早くに奇襲をかけてくるとは思わなかったのと同時に、楠小十郎が絡んでいる事に呆気にとられた。
楠は間者だと悟られていない。

(妙だな)

「しかし…」

島田は表情を暗くしながら言葉を紡いだ。

「じつはその楠と河上が店から出てきた時に、御蔵や荒木田……そして本多髷(ほんだまゆ)を結っていて町人のような身形している男もいまして…」

「心当たりは?」

苦虫を噛み潰したような顔で島田は言った。

「新見局長に瓜二つなのです。
しかし、田中伊織と名乗っていまして」

にわかには信じがたい話である。
新見錦が長州の間者との内通者なのか。

(芹沢の為に俺を斬るって魂胆かい)

暗澹たる思いであった。

「近藤さんや、ほかの隊士にはこの件に関して何も言うな」

新見とは京都残留以来の同志、その行動に納得出来るはずもなく、歳三は直接新見に聞いてみることにした。

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