鬼の生き様

「肥後の人間が俺達を狙うとはどういった了見だ」

歳三は再び斬り込み、また河上は刀を受け鍔迫り合いへと持っていく。
ギリリと刃同士が音を立てて、それでもなお河上は楽しそうに笑っている。

「肥後藩っていう事がバレてしもうたか。
ぬしさん、面白か男やなあ」

「はっ、その田舎臭え喋り方で分からねえ奴はいねえさ」

歳三は刀を払い胴元を切った。
手応えあったように思えたが、カサっという音とともに河上の懐は切れ、小判がバラバラと落っこちた。
浪人風情が持ち歩くような額ではない。

(誰かに頼まれてやった事だな…)

真っ先に浮かんだのは、長州の間者だと疑っている荒木田左馬之亮、御倉井勢武、松井竜三郎、越後三郎の四人である。

太刀をふりかざして、横あいから河上に切ってかかる。
その太刀を河上はほとんど無意識に受けとめた。
歳三の太刀の刃を打って、騒然とした響きと共に、またたく間、火花を散らした。

「土方さん!」

そう声をかけられ、横目に声の主を見ると、加勢しにやって来たのは島田魁と同じく諸氏調役兼監察の任に就いている川島勝司の二人であった。

「なかなか強かね。
せっかく楽しか勝負やったばってん、加勢が来てしもうたけん。 また改めて勝負しようや」

河上はそう言うと、歳三の脛を蹴り怯んだ隙に地面を蹴りあげ、砂埃が歳三の目に入って苦痛が伴う。

(クソッ、目潰しか)

手早く馴れた手つきで河上は金を拾い上げ、軽々と後退していく。

「久しぶりに骨んある男と立ち会うたばい。
また近かうちに会おう」

待ちやがれ、と叫ぼうと思ったが河上をこれ以上追うのは危険だ。
平隊士も一人斬られ、ほかの隊士では河上には太刀打ち出来ないだろう。

< 236 / 287 >

この作品をシェア

pagetop