鬼の生き様


しかし結局幕府は開国を実施した。
斉昭は大老の井伊直弼と対立し、安政の大獄で処罰を受けたのである。

これ以降、藩内では、〝水戸天狗党〟とよばれる尊王攘夷派と〝諸生党〟とよばれる改革反対派、いわゆる保守派との対立が激しくなっていった。

この一方で、水戸天狗党の浪士たちによる過激な事件がくり返されるようになった。


「…しかし同志達が桜田門で井伊直弼を討ち取った時に、俺達ャ一体何をしていた。
ただただ飲んで飲んで飲んだくれていただけだった。
同志達が志を全うしてたっていうのに俺達ゃのうのうと……。
あん時は悔しくて悔しくて仕方がなかった。
挙句にアンタは天狗党員を斬って投獄された」

芹沢は自身の小指を見た。
投獄され、死罪の処分を受けた芹沢は獄中にて小指を嚙み切り、辞世の句を詠んだ。

『雪霜に ほどよく色の さきがけて 散りても後に 匂う梅が香』

死を覚悟していた芹沢に大赦されたのは、それからしばらく経ってからだった。
清河八郎が浪士組を結成するという知らせがきたのだ。

「……将軍警固の為に京に上る。
そんな名目は俺ァなんだってよかった」

新見は唇が切れ、血が出ている。
それを拭き取りながら、ようやく起き上がり、芹沢の肩を掴んだ。

「名目はなんだってよかったんだ…。
天子様の在わす京へ行けるのなら。
しかし清河の真の目的が、尊皇攘夷の魁たらんとすることを新徳寺で聞いた時に俺は愕然としたよ」

芹沢はもはや何も言えなかった。
そこまで自分の事を考え、そして行動に移している新見を殴ってしまったということを、心の底から恥じた。

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