鬼の生き様
酒を呑んでも、煙管を吸っても、女を抱いても、何もこの孤独感が埋まる事はなかった。
埋まるどころかそれは、自分の弱さをひしひしと伝える無情という名の悪循環。
ただただ己が情けなく、寂しい思いでいっぱいになっていく。
吸い終わった煙管を、煙管入れにお梅が仕舞うと、あっ。とお梅は声をあげた。
「あら! 根付(ねつけ)が無い」
煙管入れにはウニコウルの根付が付けてあったのだが、それが無いのだ。
「なんだって!?」
芹沢は煙管入れを勢いよく取り上げ、見てもお梅の言う通り、ウニコウルの根付が無くなっていた。
水戸に居た時に、新見が世話になっているからと買ってくれたものであった。
〝ウニコウル〟とは、今で言うユニコーンのことで、北極海に棲息する一角獣(いっかくじゅう)のことだ。
神話伝説に登場するユニコーンの動物の角には万病に効く効果があるといわれていて、一角獣の牙がそれだと偽って、多数売買されていた。
それがオランダ経由で一部日本にも輸入され、江戸時代の日本にも広がっていた。
当時その牙は小さなものでも、ものすごく高価な代物であった。
芹沢はその根付を、それはそれは大事にしていたのだが、その根付が忽然と消えてしまった。
「平山!平間!野口!!」
凄まじい怒号が八木邸に響き渡った。
慌てて三人は芹沢の自室へとやって来ると、鬼の形相のように眉間に皺を寄せ、ウニコウルの話をした。
「知らんのなら、監察の者達を呼んでさっそく探し出せい!」
芹沢のこめかみには青筋が浮き上がり、三人は慌てて島田魁や川島勝司を呼びに前川邸へと飛び込んだ。
即刻、ウニコウルの根付を探し出せ。
芹沢の剣幕は怒りに溢れかえっていた。
島田達はその様子を見て、只事ではないな、と思い、すぐさま歳三達に事の次第を話し、さっそく探索しに行く事となった。
「あのオッさん、ウニコウルの根付なんて、大層な物を持ってんだな」
歳三は嘲笑しながら、そう言った。
「きっと盗っ人は金に変える魂胆だろう。
質屋を徹底的に探し出すのが先決だ」
歳三の言う通り、島田達は質屋を一軒一軒訪ねて商品を吟味する。
何件回ったのか、どれぐらい時間が経っていたのかは分からないが、もう七ツ(17時)になっていた。
__あった。
ウニコウルの根付は歳三の言う通り、質屋に売られていた。
一目見るだけで、高価な物だということが島田にも分かり、それを買い取った。