鬼の生き様

破滅への道


──新見錦が姿をくらませた。

 突然の局長が居なくなったいう動揺は、壬生浪士組一同にすぐさま広がった。
歳三からしたら、それはそれで好都合であった。

隊を大きくするためには、いつか新見と芹沢を斬る日がくるだろう、しかしその新見が居なくなったのだから歳三にとっては手間が省ける。

河上彦斎との繋がりも、新見が居なくなったということは、認めたということとなるのだ。


文久三年(1863年)八月十日。


 芹沢は、新見の『また戻ってくる』という言葉を信じて、芹沢はため息をつき憂愁を感じていた。
もう、暴れ狂うのはやめよう。
壬生浪士組に芹沢鴨あり。
そう思われるようになれば、きっと新見もすぐに戻って来るに違いない。

八木為三郎の息女のセイ。
佐々木愛次郎。

好きだった者達が立て続けに死んでいる。

そして、新見錦。

無二の親友、義兄弟のような存在でもあった新見が居なくなったとなれば芹沢の心にはぽっかりと大きな穴が開いてしまった。


「芹沢先生…、お辛いのは分かりますえ。
あまり、無理せんでくださいな」


芹沢にはお梅しかもう居ない。
お梅の細い身体を抱きしめると、お梅もそれにそっとならうように芹沢に腕を回した。

「今のワシには心の拠り所はお前しかおらん」

(なんて寂しい人なんやろ…)

廓寥とした寂しさはお梅にもひしひしと伝わり、見るに耐えなかった。
酒を持ってこい、といいお梅は素直に芹沢に酒膳を用意した。
心の奥底が何かを欲しがっているように、きゅーっと締め付けられた。

「これは甘えだろうか…。
こんな日ぐらいは、愛次郎も許してくれるだろう」

自分自身に言い聞かせるように、芹沢は棚にしまっていた煙管をお梅に取ってもらい、刻みタバコに火をつけて深々と吸いこむと、肺のすみずみにまで煙が入っていく。

久しぶりに吸う煙管にクラクラと少ししたが、つらい時に吸う煙管ほど不味いものはない。


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