鬼の生き様
島田はすぐさま屯所へと引き返し、芹沢に発見した事を報告すると、その売りに来た男というのは大坂弁の浪人で、中肉中背、眉の上には刀傷がある男であったという。
「おそらくは…」
眉の上の刀傷。
そんな男はなかなか居ない。
「佐伯だな」
芹沢は酒を徳利で呑んだ。
遣る瀬無い気持ちでたくさんだ。
佐々木愛次郎を殺した時に、奥歯を噛み締めながらも、グッと堪えて佐伯を許してやったのにも関わらず、佐伯はまたしても芹沢を裏切ったのだ。
島田は静かに頷き、役目を果たしたので部屋から出て行った。
「おのれ…佐伯め。もはや許せん」
芹沢は愛刀、備後三原守家正家の鞘を払い、刀の手入れをし始めた。
「斬るんですか?」
平間は恐る恐る芹沢に聞いた。
「当たり前だ!
先生が斬らんでも俺が斬るわい」
平山はそう言いながら、平間を小突いた。
芹沢は「愛次郎を斬った後、隊の金が無くなったろう。あれもきっと佐伯だ」と言った。
新見が補填して補う事が出来たが、おそらくその頃にウニコウルの根付も盗まれていたのだろう。
愛次郎が死んでから煙管をしばらく絶っていたから気が付かなかった。
「愛次郎が殺されて初七日だ。
ようやく愛次郎を供養する事ができるぞ」
愛次郎とあぐりの為の弔い合戦である。
芹沢は目釘を湿らせた。
黒羽二重染め抜き五つ紋の紋付を着て、仙台平の袴を身に付け芹沢は正装をした。