鬼の生き様


 勢いよく刀を引ければどんなに楽だろうか。
新見はゆっくりゆっくりと刀を引いていく。
ちょうど、ミゾオチあたりにきたところで刀はピタリと止まった。
血が溢れ出てもう力が出ない。

これ以上は無理だろう。

山南は刀を改めて構え直し、いつでも斬れる準備をした。

「まだだ!見事腹一文字に切り裂かれた俺の亡骸を…芹沢さんに見せねば……あん人の、武士道に……申し訳立たねえ…」

左之助は自分の腹をさすった。
切腹の古傷が痛む。

今日日の馬鹿ではないと、腹一文字なんて引けないだろう。

しかしそれを新見はやってのけた。
最期の最期に、芹沢の為に、見事、腹一文字に切腹を果たしたのである。


「色々あったが、今のアンタは紛れもなく武士だぜ」


歳三の言葉に新見は最期に優しくフッと笑った。



「過激浪士の手を取り、俺達に反旗を翻した壬生浪士組、田中伊織は死んだ」


歳三、山南、左之助、島田は清めの酒を呑んでいた。

「最期は武士らしく…見事な死に様だったな」

左之助はそう言いながら、一口酒に手をつけたが味なんて何も感じなかった。


「あの人は立派な侍だったよ。
方向性は違ったとしても、主君(芹沢)の為に、身命を賭して生涯を全うしたのさ」


「えぇ……」


「壬生浪士組の田中伊織は死んでも、新見錦副長は生きている。
俺らの心ん中でな……」

新見錦。
彼の墓は存在しない。
壬生寺にて埋葬されたが、その墓石に刻まれた名前は、田中伊織となっている。


芹沢に忠義を尽くしてきた人生であった。
享年二十七歳。


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