鬼の生き様


 中庭へと行くと、すぐに主人の佐藤彦五郎が姿を現した。
物乞いと思しき少年は、突然ポロポロと涙を流し彦五郎とノブの目の前で膝をついて頭を下げた。


「新選組隊士、市村鉄之助と申します。
土方副長の命により参りました」


 市村鉄之助と名乗った少年の、服はぼろぼろな黒衣装で、よく見ると左腕には、泥などでかなり汚れているが、白地に赤で山形模様が三つ、その上に〝誠〟と染め抜かれていた袖章がついていた。

紛れもなく新選組の袖章である。

「土方先生よりこちらをお預かりしております」

 汚い胴締から、取出したのは一枚の写真と小切紙である。
その写真には、総髪を後ろに撫で付けた洋装姿の土方歳三が威風堂々と座っている姿が写っていた。
そして、もう一つの小切紙は半紙の端をニ寸ばかり切ったものであり

「使の者の身の上頼上候。義豊」

と書いてあった。
間違いなく歳三の筆跡である。

「…御勤め御苦労だったね。
鉄之助くん」

彦五郎はそう言うと、下駄を履き鉄之助の側まで寄って肩を叩くと、二人は北の空を見上げた。

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