鬼の生き様


 しかし天然理心流の実戦向きの剣法は、根からの喧嘩師でもある歳三は気に入っていた。


天然理心流の基本の構えである平晴眼、最初にこの剣技を修得しなければならないのだが、左の肩を引き右足を前に半身に開き、刀を右に開き、刃を内側に向ける。

通常、突きというものは、攻撃が外れると後が無い危険な技とされているが、この構えで攻撃を行えば、仮に突きが外されても、そのまま刀を振って相手の頚動脈を斬りに行く事が出来るのだ。


まさに合理的な剣なのである。


「どうだいトシ。
少しは慣れたかい?」

「あぁ、天然理心流は俺向きだ。
勝っちゃんには到底足下に及ばねえけどな」


 二人は年も一つ違いと近く意気投合もし、「トシ」、「勝っちゃん」と呼び合う仲となっていた。

歳三はあれ以来、勝太とは試合っていない。
負けん気の強い歳三は、勝太と互角に渡り合えるようになるまでは、試合をしたくはなかったのだが、はたして強くなったのか、歳三は自分の成長を感じる事は少なかった。


「勝太!惣次郎が帰ってきたぞ」


周助の声を聞くと、勝太はうきうきと腹の底からせり上がるような思いを足どりに見せて走っていく。

歳三もつられて勝太について行くと、まだ十歳前半ぐらいの少年が立っていた。


「あっ、新しい門人さんですか?」


 惣次郎と呼ばれた少年は歳三を見ると、人懐こい笑顔を浮かべた。

「沖田惣次郎です。
よろしくお願い致します」

「惣次郎はな、奥州白河藩の生まれでな、剣の腕前は天下一品だ」

周助はまるで我が子のように惣次郎を褒め称えた。

< 44 / 287 >

この作品をシェア

pagetop