鬼の生き様


 面白くない、歳三はそう思って噴煙のように吹き出る嫉妬心を惣次郎に見せた。

「ついこの間も白河藩の剣術師範を倒しちまったらしいじゃねえか」

 門人の一声一声に反応してしまう。
白河藩は惣次郎の父、勝次郎の仕えていた藩で、藩士の子弟として剣術を披露する機会を与えられたのだ。
勝次郎は弘化二年(1845年)に惣次郎がまだ二歳の時に亡くなっていたが、白河藩との繋がりが消えたわけではなく、藩士の子弟として剣術試合を披露することとなった。

その試合で惣次郎は弱冠十二歳にして剣術師範を打ち負かしてしまったという。



(所詮子供相手さ、剣術師範とやらが大人気ねえからって手加減しただけに決まってらぁ)

歳三は大いに気を悪くした。
こんな子供と話をしているぐらいなら、稽古をつけた方がマシだ。

「勝っちゃん、俺はガキと話してる暇なんか無いんだ。
久しぶりに手合わせ願いたい」


「おぉ、そうか。
そうだよな、試衛館に来てひと月余り。
お前もどこまで強くなったか試したい頃だろう」


あぁ、と歳三は頷いた。
同じ門人達ばかりと稽古をつけて立ち合いにも新鮮さというものを失っていたのだ。
この自棄になった気持ちは勝太ほど腕が立つ男と試合わなければ収まりがつかない。


「そうだ惣次郎!
トシと試合ってみないか?」


「何言ってんだ。
こんなガキ相手に剣を交えてどうなる?」

勝太の提案に歳三の声は棘を含んで言い返していたが、惣次郎も同じような言い方で声を発した。


「私もね、剣術を始めてまだわずかな初心者と試合う暇はないんですよ」


歳三と惣次郎はいがみ合った。
まるで威嚇する犬の如く、敵愾心を燃やした。


「まぁ落ち着け。
二人とも文句言わずに試合ってみろ」


勝太は二人を宥め、二人はいがみ合いながら道場へと向かって行ったのだが、勝負は一瞬であった。

 惣次郎の剣技はまるで、蝶のように舞い、しかし技は鋭く危険な突きを何度も鋭く繰り出してくるものであった。

(強ぇ、勝っちゃんよりいつかは強くなるだろう)

純粋にそう思った。
何度試合をしても、歳三は全敗した。

二人は飽きる事なく試合を続け、気が付けば稽古の時間は終わっていた。

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