鬼の生き様


 相手は木剣、こっちは竹刀での“殺し合い”は完全に不利な争いなのである。

 歳三は血みどろになりながら襲撃してくる門人の喉元を突いた。
その男が落とした木剣を奪い取り、少年に渡した。
少しは形勢が逆転し、激しい勝負は続いた。
木剣が功を成して、門人達は悶絶する痛みに耐えきれずに、バタバタと倒れていく。

「篠原さん、アンタにゃ世話になったな」

歳三は息絶え絶えにそう言い、いつしか手に入れた木剣で篠原の面を打った。

 先ほどまで明るかった空は、もう茜色に変わっていた。
二人は荒い息を吐きながら感情が、心の層のずっと奥深いところから泉のように湧いて来た。


「勝った!」


もう立っているのもやっとであった。
歳三は少年の肩をとり、薬箱のつづらを背負い道場から出た。

「俺達ャ、勝ったぜ」

 道場から出る時に木剣を投げ捨てようともしたが、右手の指がまったく開かずに無理矢理、指で一本ずつ外していった。
神社に着くと、二人は向拝に倒れこむように寝転んだ。

「…申し訳ない、俺のせいで」

「いや、俺も薬売りをしながら剣を学んでいる身だ。
どのみち同じ結末を迎えていただろう」


そうですか、と少年は言うと、歳三は立ち上がった。
傷が痛むのだ。少年の身体を改めて見ると傷だらけであった。

「これやるよ」

歳三は石田散薬を少年に手渡した。

「いいのか?」

「いいよ、ここで会ったのもなんかの縁だ」

「申し遅れました。俺は山口 一(やまぐち はじめ)と申します。
この御恩は生涯忘れません」

「山口か、俺は土方歳三だ。
流派は、あの正眼だと小野派一刀流か?」

「いや。小野派一刀流に近いかもしれませんが、色々な流派が混じり合っているんでしょう。
他流試合を申し込むにつれ、様々な流派が身についてしまい、一概に流派が言えなくなってしいました」

なるほど、と歳三は言った。
 天保十五年(1844年)あの元旦生まれと聞いた時には驚いた。

山口 一、まだ年は十三歳と若く、惣次郎よりも二歳年下だと知ると頭がクラクラとした。


「惣次郎とどっちが強いのかな」

歳三はポツリと呟いた。
 試衛館を出て四年、一日たりとも勝太や惣次郎、源三郎の事を忘れた事はない。
元気にしているのだろうか。

 茜色した細長い雲が色づいた西空を見ると、試衛館の懐かしい日々が歳三の脳裏に走馬灯のように浮かんだ。

< 63 / 287 >

この作品をシェア

pagetop