鬼の生き様
「お侍さん、ここでは他の客の迷惑になりますぜ、外に出ようや」
歳三はそう言うと、間合をとりながら店外へと出ていくが、ただならぬ雰囲気に、町人達は逃げ出していく。
ついこの間、三十人もの相手をしたばかりだが、真剣相手に勝負をするのは初めてだ。
歳三は竹刀を構えた。
綺麗な正眼の浪人に、隙はない。
「何をしているんですか!」
突然、背後から声をかけられた。
色白の穏やかな顔立ちをしていた男だった。
「清河さん、急いでいると言っていたじゃないですか。
早く行かなくていいんですか?」
浪人の名前は清河というらしい。
男はそう言うと、歳三と清河の間に割って入った。
清河はバツの悪そうな顔をして、その場から立ち去った。
「あの男が仕掛けた事でしょう。
ご迷惑をかけて申し訳ありません」
男は歳三に頭を下げた。
「彼は出羽の浪人の清河八郎といいまして北辰一刀流、免許皆伝の腕前の人物です」
清河八郎。
厭な男だった。
歳三は消えゆく清河の背中を見つめながら、いつか斬ると心に誓った。