鬼の生き様

「それにしても、よくここが分かったな」

「石田散薬。
あの日、土方さんが俺にくれた。
いつか恩を返そうと、捨てずにとっておいてました」

「義理を返すどころか、また借りを作ったな」

歳三は自嘲しながらそう言うと、山口は申し訳なさそうに頭を下げた。

「面目無いです。
あの日と今日の恩は生涯忘れません」


 歳三は篠原道場にも石田散薬を売っている。
この場所が分かるのも時間の問題であろう。
彦五郎に事の事情を話すと、外の様子を伺いに行ってくれた。

「浪人が二人、うろついているな。
ここらでは見かけないツラだ」

彦五郎はこっそりとそう言うと、歳三は山口に言った。

「恐らく仲間を集めているのだろう。
もう連中にはここが分かっている」

「くそっ、俺としたことが…。
これ以上、迷惑はかけられません」

山口はそう言い目釘を湿らせたが歳三は「待て」と言った。

「今回の一件は俺もかんでいるだろ。
何も山口一人で行く事ァねえべ」


そうは言ってもまた二人で三十人相手ともなれば、なかなか気がひけるものだ。
ましてや今回は、木剣ではなく真剣での争いになるであろう。

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