鬼の生き様

 どうするか話し合っていると、玄関から
「ごめんください」
という声が聞こえた。

いよいよ来たのだろうか、歳三は身構えた。
彦五郎に頼み込み、もしものために大刀を借りていた。
 彦五郎は多摩屈指の資産家で、寄場名主でありながら地域警護の為、幕府より帯刀を許可されているのだ。

 歳三はこっそりと声の主を覗きにいこうとすると、喜六が歳三のもとへとやっきて来客だと伝えた。
誰某かを喜六に確認してみると、歳三は驚いた。

「玄武館の山南敬助って人が、歳三に会いてえってよ」

山南に上がってもらうように伝え、歳三と山南は再会を果たしたのである。

「すみません、先約がいらっしゃったとはつゆ知らず。
新年の挨拶に伺いに来たのですが」

「山南さん、一体どうしてここが」

「石田散薬を作っている場所に行けば、あなたに会えると思いましてね」

歳三はまたか、とため息を吐いた。
まさか石田散薬の行商で、歳三の家まで調べて来られるとは思ってもみなかった。

恐るべし薬の行商。


「それにしても新年早々、何やら物騒な事が起こりそうですね。
外に血相を変えた浪人達を複数人お見受けしました」

「実はその事で困っているんだ…」

「申し訳ない、俺のせいです」

山口はそう言うと、襖を開いて入って来た。

「あなたは?」

「山口一。
江戸には土方さんぐらいしか頼れる人がいません」

 これまでの経由の事を話すと、なるほどと山南は頷いた。

「そういう経緯があったのですね。
なるほど一人頭、十人ですか」

ん、と歳三と山口は山南を見た。

「土方くんには清河さんの件で迷惑をかけてしまった」

「別にあんたに迷惑かけられたわけじゃ……」

「同門の責任というものです。
あなたに対して蕎麦一杯で片を付けるほど、私は小さい男ではない」

 山南の助太刀は大いに助かる。
歳三は感謝の意を込めて頭を下げた。


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