鬼の生き様

上巳の雪



 正式に試衛館に入門してから、歳三は憑き物がとれたかのように稽古に専念をしていた。

 歳三は洒落者で、面紐を赤いものに変えており、剣術道具一式を身につけて稽古に励む凡そ三十人程の門弟に紛れていても一目でどれが歳三か分かった。

 勇は稽古に出る事が少なくなっている。
このところ、近藤周助も早く勇に四代目を継がせ、所帯を持たせたいらしく、見合いを進めているというのだ。
その甲斐もあってか、翌年の三月二十九日に祝言を挙げる事と決まった。


 それをきっかけに勇は、近藤勇と時折名乗るようになっている。


「源さん、手合わせを願いたい」


 歳三は井上源三郎に声をかけた。
兄弟子の源三郎は、快く引き受けてくれる。
中極意目録の腕前の源三郎が竹刀を構えると歳三は緊迫した空気に包まれた。

普段は温厚な源三郎だが、その腕は確かなものである。

 しかし源三郎も歳三の前に立つと、他の試衛館門人と立ち合うよりも、(トシは一体、どのような修羅場をくぐってきたのだろうか)と不安になった。

 源三郎は竹刀を平晴眼に構え、じりじりと間合いを詰めていく。
その構え方は、実に天然理心流の模特児と言っても過言ではなく、綺麗な構えをし、隙が無かった。

(流石は源さん、中極意目録の腕前。
これは近々、免許皆伝を受けるだろう)

 歳三は隙のない源三郎を見ながら、気組を入れて竹刀を振りかざした、が、源三郎の太刀筋は迷わずに歳三の竹刀を受け止め、胴を打ち込んだ。

しかし、流石は歳三だ。
源三郎の空ぶった竹刀を弾き、面を打ち込んだ。

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