鬼の生き様

 しかし、それを源三郎は瞬時にそれを交わし、竹刀の乾いた音が試衛館の道場に鳴り響いた。

竹刀は歳三の面布団に当たっていたのである。

源三郎の勝利。

「まだ源さんには勝てねえか」

「いやぁ、歳三さんもなかなかの腕前。
剣筋が良いから、私と違ってすぐに免許も取れるんだろうね」


 物見から見える源三郎の表情は穏やかな気の優しそうな表情を浮かべていた。
試合を見ていた永倉は感心したように腕を組んでいる。

(なるほど、噂を聞いていた通りの男だ。
惣次郎の剣が猛者の剣ならば、歳三さんの剣は修羅の剣とも言えよう。
たかが竹刀での試合だが、歳三さんにゃ殺気が漲っている)

 是非、一度立ち合ってみたい。
永倉はそう思うと、心より先に身体が動いていた。

 神道無念流本目録の永倉新八。
入門以来、歳三は永倉と試合うのは初めてであった。

 五歳年下の新八の撃剣は激しかった。
惣次郎と戦えば互角だろうか、いやそれ以上の強さかもしれない。

 歳三は永倉に敗れた。
しかし負けん気の強い歳三だが、永倉ほどの腕前の者と立ち合って負けたとなれば、清々しい気分でもあった。

「永倉はどういう経緯で、試衛館に」

「かつては市川宇八郎という男と共に、腕試しで色々な道場をまわっていました。
そうしているうちに、巡り巡って試衛館へ。
居心地の良さから、いつしか客分として招かれるようになった次第です」

 松前藩の永倉と市川宇八郎は同郷で親友であった。
六尺(約180cm)あまりの大男の市川は無精髭を生やしているせいか永倉よりも年は離れてみえた。

 永倉は今もなお、本所亀沢町の百合元昇三の道場に通い神道無念流を学んでいるという。

「色々な道場をまわってきましたが、ここは別段、気概を感じまして近藤先生の人柄に惹かれました」

そう語る永倉は目を輝かせ、勇について語っていた。

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