鬼の生き様
勇とツネの祝言が終わって暫く経ち、試衛館には平穏な日々を取り戻していた。
しかし最近、惣次郎の周りに“例の女”がよく付きまとうようになった。
惣次郎はこの時、まだ十八歳である。
いち早く気が付いたのは歳三であった。
「源さん、前に言ってたコレってあれだろ」
歳三は小指を立て、源三郎に声をかけた。
惣次郎の近くには試衛館の手伝いをしているキンという女がいた。
源三郎は認めてよいのか分からないが、躊躇ったものの頷いた。
キンは男勝りな女性で、テキパキとよく働いた。
「ありゃ勝っちゃんが祝言を挙げてからぴったり引っ付いちまってるじゃねえか」
二人に触発され、恋の炎というのが燃え上がってしまったのだろう。
歳三はもう惣次郎の歳の頃には、佐江を抱き、女の味とやらを知っていた。
これで一皮剥ければ良い経験になるとさえ思っている。
日に日に仲睦まじくなっていく様子に、歳三、勇、源三郎は勿論、山南と永倉もそっと惣次郎の恋というものを見守っていた。
ある夕暮れ時の頃である。
行水を浴びている惣次郎にキンは近付いた。
「惣次郎様」
「どうしたんですか?」
キンは言おうか言わないか迷いながら、しばらく俯きながらモジモジとおはしょりを握ったり、手を緩めたりとしている。
しばらくすると、意を決したようにキンは顔をあげ惣次郎を見つめた。
「ずっと惣次郎様の事が…好きでした」
「私もおキンちゃんの事は好きだよ」
嬉しい、とキンは涙を流して喜んだ。
夕焼けのせいか、キンの頬は紅く染まっている。
嬉しさのあまりキンは惣次郎に抱きついた。
「…ちょっ!ちょっと、着物濡れちゃう!」
「良いんです。
想いが通じあったのですから…。
早く私も近藤先生やツネ様のように惣次郎様と夫婦(めおと)になりたい」
惣次郎はそこで、キンを引き離した。
(何を言っているんだろう、この人は)
もう六月になっていた。
暑さで頭がやられてしまったのだろう、惣次郎はキンの額に手を乗せた。
熱はないようだが、キンの鼓動は今にも聞こえてしまうのではないかと思うほど、激しく脈を打っている。