囚われの雑草姫と美麗冷酷男子の生活
そもそも、なぜ私がこの隠れ家に居るかと
時間を2週間前に戻すと……

「立ち退き?」

思わず冬の空の下で叫んでしまう
叫び声と共に白い息が見える

「そう、立ち退きだよ月島さん…」

困ったように眉を下げた人の良さげなおじさまが
腕を組んで答えた

「ええ!管理人さん!私どうしたら良いんですか?
ここしか住むところないんです!おうちはここしかー!」

仕方なく泣きつくと…益々眉を下げた管理人さんは気の毒そうに小さく呟きこちらをちらりと見た

「そう言われてもねー。そう言う約束だったよね?
はじめから…」

「そ、それは確かに…」

そう、この木造築50年の集合住宅…は数ヶ月後に取り壊すと知っていて住んだのだけれど…

「申し訳ないけど…ここももう人の手に渡るからさ、早急に次探してね?」

申し訳なさそうな顔をした管理人さんにこれ以上は言えなかったので、私は無言で頷いた

私の荷物と言えば…海外旅行1週間分位のトランク1つ
の着替えと自炊に使った雪平鍋が蓋との1セットとフライパン1つ

あとは何もない

それらを持って部屋を出たけれど…宛はない

(あぁあ…寒…)

取り敢えず、トランクを勤め先のロッカールームに持ち込んで制服に着替えた

老舗ホテルのフレンチレストラン
そこが私の今の職場

格式高いレストランのため、お客様のドレスコードはセミフォーマル以上
政治家、一流企業の役員、芸能人など所謂お金持ちが連日やって来る


私はフロア従業員
けれどここの制服は肌触りの良いシルクの真っ白なブラウス、黒いスーツに深緑のネクタイ、濃紺のサロンですっきりしたスタイル気に入っている

髪の毛はきっちりまとめて後ろに一本に結わくと準備に出る

このピシッと背筋を伸ばしたくなる服装をすると身が引き締まり…情けない現実から少し離れられる

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