同僚は副社長様
「お邪魔します」
古川くんのお家は、副社長に似つかわしいタワーマンションの最上階。
専属のコンシャルジュも常駐しているような豪華すぎるマンションに足を踏み入れることが初めてで、意識せずとも両肩に力が入って体はカチコチだ。
「そんなに固くならないで。これから、何回も来ることになるんだから」
玄関先で、私のために客用のスリッパを出してくれる古川くんは、そわそわしている私を落ち着かせようと声をかけてくれる。
だけど、その言葉に私は違和感を覚える。
これから、何回も?それって…
「キッチンはこっち。使いたいものはなんでも俺の許可なく使ってくれていいから」
「うん、わかった。ありがとう」
「こちらこそ。家で誰かが作った料理を食べるなんて、初めてだから楽しみだ」
先程、高級スーパーで買った重たい荷物をキッチンに置くと、古川くんは部屋着に着替えてくるといってキッチンを出ていった。
一人になってようやく、私は部屋の中を見渡す。
キッチンもそうだけど、さっき歩いてきた廊下といい、ここから見えるリビングといい、どこもかしこも広い。
ここで古川くんが一人で住んでるなんて…。
って、ダメダメ!
ここに来るとき、決めたじゃない!これからは私情を挟むことなく、古川くんの同僚として、任されたことを遂行するって!
気を緩むとついひょっこりと顔を出してしまう私の恋心を押し込んで、早速今日の夕飯作りに取り掛かった。