同僚は副社長様


古川くんからすぐにレスポンスはなかったため、そのままキッチンでレタスをちぎっていた時だった。


「美都」

「っえ…古川くん…?」


フッとすぐそばに影を感じた時には、真横に古川くんの綺麗な顔が迫っていた。

思いっきり気が緩んでいた私は好きな人との突然の至近距離に肩をビクつかせて言葉を失うだけ。

いつの間にキッチンへ?

気配もなくやってきたことに戸惑いを隠せないのと同時に、なぜか不機嫌そうに私を覗き込んでくる古川くんが気になる。


「えっと…麻婆豆腐のおかわりなら、鍋にあるよ?」

「うん、でも美都は食べないの?」

「だから私の分は作ってないって…」

「俺のおかわり分はあるのに?」


もしかして、私が古川くん家でご飯食べて帰らないことに怒ってるの?

ランチの時も、古川くん用と私用のお弁当の内容を気にしていた彼を思い出し、これはまた地雷を踏んでしまったかも、と危惧した時には遅かった。


「美都も分からず屋だね。聞き分けの悪い子に新しいルールが必要かな?」

「え…」

「好き嫌いが理由なのは別として、美都の作ったご飯は俺と一緒に食べること。簡単だろ?」


簡単って言われても…。

それだと、朝ごはんも一緒に食べることになってしまう。

毎朝、出勤前に古川くん家に通って朝食を作り、お弁当も作るとなると、普段より何時間も早く起床しなくてはいけなくなる。

古川くんと一緒にいられる時間が増えるのは素直に喜ばしいことだけど、そんな生活はいつか私の体調を崩しそうだ。


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