Dear Hero
…俺が、水嶋を救った……?



「あの日、澤北くんが声をかけてくれた事で私の世界は変わりました。人に頼っていいと言ってくれた、何度も助けてくれた、“ありがとう”を教えてくれた、家族の温かさを教えてくれた、学校行事が楽しいと思えた、クラスの人たちとも仲良くなる事ができた…。澤北くんがいなければ、私は何も知らないままでした。これは全部全部、澤北くんがいたからなんです」
「……」


「澤北くんは、私のヒーローなんです」



胸の中からグッと込み上げてくるものがあった。
ずっと…ずっと憧れていた、欲しかった言葉だ。


でも違う、俺はヒーローの資格なんかない。


「違うよ…俺は弱い。誰も護れない」
「澤北くんは弱くなんかない!誰にも負けない優しさがあるんです!」
「強くなくちゃ意味ねぇよ!」
「強いだけがヒーローなんですか!?人を護ったり助けたり、救いの手を差し伸べるのもヒーローなんじゃないんですか?……少なくとも、私は澤北くんに救われたんです」
「……っ」
「澤北くんは、そうやってみんなの笑顔を護る、優しいヒーローなんです」




目の前の景色が歪む。
鼻の奥がツンとして痛い。
あの日からずっと胸の中で渦巻いていた苦しい気持ちが、すっと消えていくように感じた。



身体と共に打ち砕かれたあの日から、言葉にする事のなかった俺の夢。
叶う事はないと思い込んでいたけど、水嶋に話した事でなんだか力が湧いてきて、もしかしたら叶うのかもしれない、なんて思い始めていた。

あまりにも子供じみた夢。
でも水嶋は笑わないで素敵な夢だと言ってくれた。
応援してくれる人がいる。それだけで叶う気がして堪らなかった。



「……っ」

水嶋の手を取り、抱きすくめる。
零れてしまう涙を見せたくなかった。
だけど、抑えきれない嗚咽。
声は出さないようにしていたけれど、全部わかってるんだろうな。
水嶋は小さな手をそっと俺の背中に回すと、トントンと優しく撫でてくれる。
その優しさが嬉しくて、涙が止まらなかった。



「心の優しいヒーロー、私を救い出してくれて、ありがとうございます」

水嶋を抱く手に力を籠める。
背中を撫でていてくれた手が止まり、同じようにぎゅっと抱き返してくれた。


「……水嶋」
「はい」
「…めちゃくちゃ嬉しい。……ありがとう」
「…はいっ」
「あと、ホットミルクありがとう。美味かった」
「ふふっよかったです」


幸せな時間。
このまま時間が止まればいいのに―――――
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