Dear Hero
カチャンと非常階段への扉が開く音がして、ビクリと体を離す。
上の階との間の踊り場にいたせいか、暗かったせいか。
階段に出てきたのは従業員だったが、こちらに気づく事なく下の階へと降りて行った。


二人で目を合わせてほうと息を吐く。
腕の中にいたままの水嶋は手を伸ばして俺の涙をぬぐう。


「いつも泣いているのは私なので、お返しですね」
「…もう見る事はないだろうけどな」
「残念です…」


ぷうと頬を膨らますと、俺の目を見て水嶋は続けた。


「澤北くん」
「なに?」
「私からもいいですか?」
「うん」
「……私だって、こんなに何度も抱き締められたら、勘違い…してしまいますよ」
「いいよ…勘違いしたら。それとも…嫌?」
「……嫌じゃない」

水嶋はそれだけ言うと、恥ずかしそうに俺の胸に顔をうずめた。




それからクラスの奴らに声をかけられるまで、非常階段で久しぶりの二人の時間を楽しみ、俺たちの高2の文化祭は幕を閉じたのだった。
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