Dear Hero
「紺野は……」
「ん?」
「大護が好きなの…?」
「………」


紺野の足が止まったのを見て、何かとんでもない事を口にしてしまった事に気づく。


「……ってごめん!俺なに言って……」


慌てて訂正しようと紺野を見たら、何も言えなかった。


頬を染めて、目を伏せると誤魔化すように髪を耳にかける紺野。
こちらを見ると、「……内緒だよ」と照れくさそうに笑った。



わかっていたのに。
直接その言葉を聞いたわけではないのに。
心がパリンと音をたてて割れたような気がした。


ずっと大護と一緒にいたから知ってる。
大護も同じ気持ちなんだろうなって。



ただ、失恋しているはずなのに、なんだかほっとした気持ちもあった。

俺の好きな女の子と
俺の好きな友だちが両想いなら
こんな幸せな事はないんじゃないかなって。



「……告んないの?」
「たぶん……ダイくんは私の事、女として見てないと思うから」
「そんな事……」

“そんな事ないよ”って言おうとしたけど、俺が勝手に言っていいもんじゃないと思ったから言えなかった。


「いいんだ。今こうやって同じ部活で近くにいられたり、一緒に帰ったりできるだけでも幸せなんだ」


指を絡めて口元を隠す紺野。
隠しても、幸せそうな表情はすぐにわかる。
心臓がドキドキいってる。
その表情は、違うヤツを想っているものだとわかっているのに。

苦しくて仕方がなかった。



「……友だちにね、ダイくんがいいって言っても、ちっとも良さをわかってくれないの」
「一歩踏み込まないと、あいつの良さはわかんないよな」
「でも、テツくんはわかってくれる」
「………」
「ダイくんの事わかってくれる人がいてくれて、嬉しいんだ」
「………」
「もし……ダイくんに振られても、テツくんとは仲良くしてたいな」



恋愛経験豊富な人だったら、こんな時なんて言うんだろう。


大護と紺野。
二人とも俺にとっては大事なヤツだ。
二人とも幸せになってほしい。


俺は恋愛経験もないし、口も達者じゃないしうまく立ち回る術もない。
だから、今の俺にできる事は一つだけ。



「……応援するよ。うまくいくといいな」



この先、この想いを君に告げる時はあるのかな。
届く前に砕け散ってしまうかもしれない。


それでもいい。
俺の大好きな笑顔でいる、紺野をずっと見ていたかったから。





俺は、紺野への気持ちに蓋をした―――――。




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