秋の月は日々戯れに

流石に直球で“うん”と返事をするのはかわいそうだったので、なんと返そうか迷っていると、彼のデスクの脇を通り過ぎざま、密かにまたチョコレートの山を高くした先輩が「そこの定食屋、煮魚も旨いが、ハンバーグカレーも密かな伏兵だ」と言って去って行く。


「ハンバーグカレーか……」


悩むようにポツリと呟いた彼に、後輩は「ちょっ!?」と漏らして慌てる。


「先輩!まさかほんとに観光がメインなんっすか!?冗談ですよね!オレを慰める方がほんとにほんとのメインっすよね!!」


本気で慌てて縋り付いてくる後輩に、彼は堪えきれずに笑い出す。

それでようやく、からかわれただけだと知った後輩は、ホッとしたように表情を緩めたあと、すぐさま拗ねたように膨れた。


「先輩、人が悪いっすよ」


そう言えばいつだったか同僚にも、性悪だと言われた事があったなと思いながら、彼は「悪い、悪い」と返す。


「お詫びにほら、もう少し持ってけ」


先ほど先輩がまた山を高くしたせいで雪崩て来たチョコレートを幾つか拾って、後輩の手にのせてやる。


「お前、昼まだだろ。早く食べないと、時間がなくなるぞ」
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