秋の月は日々戯れに
最後にもう一度ぐりぐりと頭を撫でてから手を離すと、解放された後輩は、チラッと彼のデスクを見やって、それから表情を微かに曇らせた。
「……先輩は、食べないんすか?」
何気ない調子で「後で食べるよ」と笑って見せるも、後輩の表情は晴れない。
それどころか、ますます曇りが増していく。
「昨日も一昨日もそう言ってましたけど、結局食べてないっすよね」
なんで知っているのかという疑問は顔には出さず「お前は俺のストーカーか」と冗談を言って笑って見せるも、後輩はそれにのってくれない。
「顔色も、最近良くないっすよ。もしかして、家でも何も食べてないんすか……?」
なんでもいいから適当なことを言って誤魔化そうと思うのだが、脳がうまく働いてくれなくて、言葉がちっとも出てこない。
ただ、困ったように笑うと、後輩がポツリと
「……奥さんと、喧嘩でもしました?」
その心配そうな問いかけに、彼は首を横に振る。
「違うよ」
否定の言葉は、考えるまでもなくすぐに口から出た。
喧嘩なんて、していない。
むしろ喧嘩したのであれば、もっと分かりやすくて良かった。