秋の月は日々戯れに
帰り際、彼は受付嬢に呼び止められた。
「本当にありがとうございました!」
深々と頭を下げる受付嬢は、その顔に眩しいほどの笑みを浮かべていた。
「色々ありましたけれど、結果的に、さやかさんと前よりもっと仲良くなれたような気がします。それもこれも全て、先輩さんと、奥様のおかげです。ありがとうございます!」
男性社員の密かなる癒しと呼ばれるにふさわしいその笑顔に、彼も笑顔を返す。
「良かったな」
後輩や同僚からもお礼を言われるたびに思った、自分は何もしていないのにという気持ちが、またふっと湧き上がる。
面倒くさいから放っておく、自分には関係ないから関わらないようにする、それが彼の本質だ。
けれど、彼女が積極的に問題に関わるから、結果的に彼も関わるしかなくなって、それなのに彼女は途中で“自分は幽霊だから”と後退するから、最終的に彼が前に出るしかなくなる。
今思うと、何とも自分勝手でマイペース――けれど、それが彼女だ。
彼女がいなければ自分は、同僚と後輩、そして受付嬢の三人の間で起こった問題に、首を突っ込むことはなかっただろう。
だから、お礼を言われるたびに、なんだか居心地の悪さを感じる。
「……先輩さん、お疲れですか?顔色が良くないですけど」