秋の月は日々戯れに

彼女が来てから、調理器具や調味料の数が格段に増えた。

食器なんかも、あっても使わずにしまい込まれていたものを、彼女が見つけて出してくるから、数が増えたように感じる。

冷蔵庫を開ければ、少し前までは卵しか入っていなかったのが、今では当たり前のようにぎっしりと食材が詰まっている。

いくら豊富な食材や調味料があっても、幽霊である彼女は食べることができないから、それらは全て彼の胃の中に収まるのだ。

彼の為だけに、彼女が揃えたもの――それが、キッチンスペースに溢れている。

けれど彼女が突然いなくなってしまった日から、作るのも食べるのも面倒くさくてしょうがなかった。

そんな調子で彼女がいなくなってから、彼はまともな食事を口にしていない。

今日一日で口にしたものも、先輩に貰ったチョコレートを三個と缶コーヒーだけ。

お腹は空いているはずなのに、食べようという気が起きない。

その理由はもちろん分かっている、認めたくはないだけで――。

キッチンスペースから視線を外して、もう一度顔をシーツに押し付ける。


――どんなことを言ってもいいんです。どんなことでも、一つだけ。


彼女の言葉が、不意に脳裏に浮かび上がった。
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