秋の月は日々戯れに
彼女が一人でヒートアップしている分には一向に構わないが、彼がそれにのってしまったら、何もない空間に向かって怒鳴り散らしている危ない人になってしまうので、平常心を保って歩き続ける。
それがまた気に食わないのか、彼女の頬はどんぐりを詰め込みすぎたリスのように膨れていく。
隣から向けられる険しい視線を無視しながら、そろそろ冷たすぎて感覚がなくなってきた手を、どうやって穏便に離してもらうかを考えていた彼は、ふと思い出して握られていない方の手をポケットに突っ込んだ。
指先に触れた温かいものを握りしめて手を抜き出すと“あったか~いココア”の文字が目に飛び込んでくる。
「コーヒーは反対のポケットでした。というわけで、温かいうちに飲みたいので離してください」
彼女もココアの缶に視線を落としたのを見計らって言い放つと、それをサラッと無視して、ついでにさっきまでの怒りもすっかり忘れ去って、彼女が嬉しそうに顔をほころばせる。
「その節は、わたしの代わりに受け取ってくださってありがとうございます」
「いや、あれは……なんというか」