One Night Lover
何が何でも手に入れたい藤ヶ瀬と
相手の気持ちを尊重する海斗では
今の藤ヶ瀬に勝ち目はないと遠くから盗み聞きしているハルちゃんは思っていた。

「部長、私は今、彼と別れる気はありません。

わかってください。

もう来ないで欲しいんです。」

海斗が震えてる華乃の手を握った。

「話し着きましたね。

華乃ちゃんはこれからも俺と暮らします。

だから…もう邪魔しないでもらえますか?」

海斗はそう言うと店の外に華乃を連れて行った。

「華乃ちゃん、ありがとう。

大事にするから。絶対泣かしたりしないから。」

そう言って華乃を抱きしめた。

「一杯どうですか?」

ハルちゃんが竜の前にワインを置いた。

「頂きます。」

竜はそのワインを一口飲むと大きなため息をついた。

「少し遅かったな。」

「華乃、ここに来てしばらくは元気なくて…
貴方をずっと思ってたみたいですよ。

でもね、海斗に会って変わったんです。

あの子自由で魅力的でしょ?

カッコよくて、優しくて、掴み所ないけど…
本当は繊細で…傷つきやすい。

すごく良い子なんです。

だからあの子から華乃を取って欲しくないんですよね。

華乃も幸せそうでしょ?

華乃の仕事がうまくいってるのも海斗がそばにいるからだと思いますよ。

海斗を見てるとインスピレーションが沸くって
前に華乃が言ってましたよ。

だから華乃の事本当に思ってるなら引き離さないで欲しいと思って。

貴方はもう華乃にとって過去なんです。」

竜はそれを聞いて、自分はもう華乃には必要ないと思った。

あの会社の組織の中の華乃はまるで捨てられた子犬みたいだった。

居場所を転々として、行きたい場所に行けず
常に藤ヶ瀬を探して彷徨っていた。

そんな華乃が独り立ちし、
自分の居場所を見つけ
広い庭を自由に駆け回り、
頼もしく成長しているのに
自分はまた華乃を連れ去り巨大な城に幽閉しようとしている。

それが間違いだと竜は気がついた。


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