One Night Lover
藤ヶ瀬は華乃を目で追い、
それに華乃が気付いて視線を交わす。

藤ヶ瀬は目を逸らさず更に華乃を見る。

華乃は恥ずかしそうに俯いて藤ヶ瀬から視線を外した。

健はそれをジッと見ていて妙に胸騒ぎがした。

「華乃!」

健が華乃を呼ぶと華乃は藤ヶ瀬の視線を気にしながら健の方へ向かって歩いてきた。

「話がある。

もう昼休みだろ?」

「うん。」

華乃を連れて外へ出た。

「昨日勘違いしたろ?

あのイヤリング…美南だよ。

前の日の飲み会で賢司と2人で送ってくれた時、イタズラしたんだと!

ひでぇよなぁ。

アイツら俺と華乃の仲を壊そうとしてる。」

華乃はもうそんな事はどうでも良かった。

どちらかと言えば健が浮気していた方が
自分が渉と寝てしまった言い訳になると思っていた。

「だから誤解解きたくて…」

「そうだったんだ。

ちょっとヤキモチ妬いちゃった。」

華乃は健を愛してるフリをする。

でもそれでいいと思う。

どちらにしろ結婚するのは健しかいない。

「美南ちゃんは健の事、入社した時から好きなんだよ。

だから私が憎いのかもね。」

「え?」

「え?気づいてなかった?健って案外鈍感だね。」

健は自分が鈍感だとは思えない。

今は鈍感だったらどんなに良かったかと思う。

華乃に対しては敏感だったから。

「華乃のことはすぐにわかるんだけどなぁ。」

「私のこと?」

華乃は健が何も知らないと思っていた。

「華乃…あの藤ヶ瀬って部長となんかある?」

突然、健に核心を突かれて華乃はかなり驚いた。

そして咄嗟に否定した。

「何も無いよ。ある訳ないじゃない。」

動揺してる華乃に健はそれを悟る。

その夜、帰りに華乃と会社のロビーで待ち合わせると
華乃を見ている藤ヶ瀬の視線に健はまた気がついた。

「華乃…今夜は華乃のウチに泊まってもいい?」

「いいけど…何で急に?

平日なのに珍しいね。」

「華乃と離れたくなくて…」

「うん。いいけど…」

華乃は色んな思いで頷いた。

昨日あんなことをしておいて、
もう仲直りして健を部屋に連れ込むのを
渉に見られたらどうしようと思ったり

藤ヶ瀬が何も仕掛けてこないのが気になって
思いを募らせてることも

すべてが健に申し訳なくて
華乃は今夜、健を拒めなかった。



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