お気の毒さま、今日から君は俺の妻
それを見ていると、澄花の顔はいつも緩んでしまう。天涯孤独の身ではあるが、妹がいればこんなふうだろうかと考える。
(かわいいなぁ……癒される……)
「でも早起きは偉いんじゃない? 三文の徳ともいうし」
「あ、そうですよね~えへへ。今日はたまたまお兄ちゃんにバイクで送ってもらったから早く着いたんですけど、今度から早めに出ようかなぁ~。天宮さんに会えるかもしれないしっ……あっ、そうだっ! 先輩、まだ早いですし、お茶淹れてお菓子食べませんか? お兄ちゃんが作ったビスキュイですっ。すっごくおいしいんですよ~!」
気が付けば話が脱線していたが、これも珠美の通常運転だ。そして澄花は自分とはまったく違う、天真爛漫を絵にかいたような珠美と一緒に過ごす時間が嫌いではない。むしろ唯一の楽しみでもある。
「そうね。お茶を飲む時間くらいはあると思う。お兄さんのお菓子も楽しみ」
珠美は双子で、兄の真琴(まこと)は現在有名外資系ホテルのパティシエとして働いていた。珠美をとても大事にしていて、過去何度か会社の飲み会帰りなどで迎えに来た彼に会って話したことがある。そしてまだ若いのに彼の腕はかなりのもので、甘いもの好きな澄花も何度かお相伴にあずかっていて、ひそかに楽しみにしていたのだった。
「じゃあ決まりですっ。レッツゴーです~!」
珠美はニコニコと笑って澄花の背中を押しながら、総務部へ続く廊下を歩き始めていた。