お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 夕方六時前五分にもなれば、社員はみな立ち上げていたパソコンを落とし、帰宅の準備をし始める。国内有数のIT企業で残業が多いと思われがちだが、タカミネコミュニケーションズは基本的にどのチームも部署も、差し迫ったプロジェクトがなければすみやかに帰宅することが推奨されている。


「先輩っ! 事件ですっ!」


 そんな帰宅ムードで満ちた総務部の隣の席の珠美が、スマホを握りしめて叫んだ。


「どうしたのタマちゃん」


 事件とは大げさだなと笑いながら、澄花は黒のアンゴラのコートを着ながら立ち上がる。


「お兄ちゃんの勤めてるホテルでケーキが食べられますっ!」
「食べられますって……いつだって食べられるでしょ?」
「あーん、そうじゃなくてぇ、今日ホテルでパーティーがあってっ、お兄ちゃんメインのケーキだいぶ手伝わせてもらったんですってっ……! これは行かないわけにはいきませんね、行きましょう!」
「えっ?」


 澄花は目をぱちぱちさせながら首をかしげる。


「でも誰かのパーティーなんでしょう?」


 ホテルで開催されるパーティーなのだから、招待客がいてしかるべきだろう。そこに招待されていない自分たちが入れるはずがない。


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