お気の毒さま、今日から君は俺の妻
「へぇ……どんなふうに働いていたんですか?」
澄花の問いかけに、龍一郎はふとハーブティーを飲む手を止め、少し遠い目をした。
「パリは文字通り花の都だ。私が働いていたフラワーショップは三区で、美術館の裏にあった。一流のギャラリーやブティックが多く、パリコレの装飾も手掛けた。一流のアーティストと出会い、いい経験はたくさんできたが、最終的に私が目指すところはそこではないと思い、帰国することにした」
「目指すところって?」
思わず問いかける。
「そうだな……。パリではごく普通のアパルトマンの窓にでも、必ずと言っていいほど花が植えられているし、男もプランターに水をやる光景が普通に見られる。夕方にでもなれば、老若男女がふらりと花を買い、その花をどこかに持っていく。妻がいる家なのか、恋人のもとへか、ちょっとしたパーティーのお供としてか……生活に花が根付いているんだ。フローリストでなくても、自分がいいと思った花を飾って、自然の中に花とともに生きる……そんな日々が当たり前になればと……」
澄花は訥々と語る龍一郎から目が離せなかった。
こんな風に龍一郎の話を聞くのは初めての事だった。