お気の毒さま、今日から君は俺の妻
杉江が店に心当たりがあるというので、彼の後をついて歩く。
『あ、俺だけどー』と電話をする杉江の大きくて広い背中の後ろで、珠美が楽しそうに微笑む。
「いったいどこでしょうねっ?」
「そうねぇ……どこかしら」
昼休みは限られているので遅くならないようにしてもらいたいと考えていると、杉江が繁華街の裏道に入り、ビジネスビルの前で立ち止まった。
このあたりは少し落ち着いた雰囲気で、どちらかというと割烹などの敷居の高い雰囲気がある。あまり足を踏み入れたことはないので、こんなところにひっそりと、ランチが食べられるような店があるとは知らなかった。
「この下です」
そして地下へ続く急な階段を降りていくと、暖簾も出ておらず【準備中】と札がかけられていた。入り口のあたりには小さな石の水桶があり、葉が浮いている。涼し気でいい雰囲気だ。
「やってないみたいですよ~?」
珠美の言葉に、杉江はクスッと笑って引き戸に手をかける。
「大丈夫です。さっき開けてもらうよう連絡したので」