お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 シブヤデジタルビルを出て、澄花はすぐにタクシーを拾った。目的の住所までスマホで検索すると、だいたい一時間強の距離だった。
 澄花は「披露山公園へ」と告げて、後部座席で目を閉じる。


(一時間なんてあっという間だわ……)


 別に眠いわけではない。むしろドキドキして心臓は破裂しそうだし、相変わらず喉が渇いてカラカラだ。だが目を開けていると情報過多で息苦しくなってしまう。目を閉じて静かにしているほうが気持ちが落ち着く気がした。


(龍一郎さんと、どんな話をしたらいいんだろう……なにから……いや、まずハルちゃんのことを説明しなくちゃ……)


 かつて、自分が丸山春樹というひとりの青年に命を救われたこと。そして彼を好きになったこと。彼を失ってからは自分の人生などどうでもいいと本気で思っていたこと。だから半ばやけくそで龍一郎に自分を売ったこと――。
 春樹のことを聖域にしすぎたせいで、かえって春樹の思い出をひとりで抱えるしかなく、にっちもさっちもいかなくなってしまったこと――。

 そしてなによりも大事なのは、龍一郎を傷つけるつもりはなかったことだ。

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