お気の毒さま、今日から君は俺の妻
まるでテレビや映画に出てくるビバリーヒルズのようだ。もちろん澄花と龍一郎のふたりで住む屋敷もかなり素晴らしいのだが、山の上で海が一望できるというロケーションは圧倒的だった。
そうやって広く緩い坂道をのんびりと歩きながら、目的の住所を探す。
「――あった」
ひときわ存在感のある屋敷の前で、澄花は立ち止まった。
木造二階建てで、おそらくデザイナーズ物件なのだろう。ト音記号を倒したような不思議な形をしている。
澄花はごくりと息を飲み、周囲を見回したが、玄関が遠すぎて部屋の中などもちろん見えない。
「行くしかない……のね」
澄花は腰の高さの門についているインターフォンを指で押すと、ほんの少しの間があって『はい』という年配の男性の声がした。
龍一郎でなかったことに少しがっかりしながらも、どこかで聞いたことがあるような気がしたが、そんなはずはないだろう。
澄花はこちらを見ているに違いない、監視カメラに向かってしっかりと顔を向ける。
「葛城澄花と申します。こちらに私の夫がいると聞いてきたのですが、取り次いでいただけますでしょうか」
ずっと静かだったはずの世界が、澄花の体の中で、力強く脈打ち始めていた――。