お気の毒さま、今日から君は俺の妻
藤色の大小あられ文様の上品な着物を着た彼女は、手元のボタンを操作しながら、廊下に立ち尽くす澄花に近づいてくる。
(この方は誰だろう……)
年のころは七十代後半くらいだろうか。
若い頃はひな人形のように美しかっただろうと思わせる、色の白い小ぢんまりした顔立ちで、車いすに座ってはいるが、背筋はしゃんと伸びている。
「あの……」
一瞬混乱しかけた澄花だが、ふと古河の言葉を思い出した。
(そういえば、古河さん。主に仕えていると言っていたっけ……)
龍一郎の運転手である彼が、主と呼ぶ人なら、それは葛城の縁者であるはずだ。
(でもこの方、結婚式にいたかしら……?)
だが結婚式の間ずっと自分のことで精いっぱいで、龍一郎がなにを着ていたかも覚えていない。だとしたらこれは自分のミスだ。
(挨拶しなくっちゃ……!)
澄花はものの数秒でそう答えを出し、そくざに一歩足を踏み出した。
「ご挨拶が遅れました。私は龍一郎さんの――」
次の瞬間、後ろから腕がつかまれる。