お気の毒さま、今日から君は俺の妻

「憎らしいっ……あなたって人はっ……!」


 ののしる言葉に続けて、バスッ、バスッと、音がする。
 老女はどこから出したのか、細い金属製の杖で、なんと龍一郎の足をなぐりつけている。細腕で力もない。杖は軽く当たっているだけだろうが、澄花は龍一郎の背後で息を飲む。


「わたくしというものがありながらっ……ひどいっ……! ひどいわっ!」


 ようやく事の次第の異常さに気が付いたのだ。


(まるで……自分が龍一郎さんの妻だと思ってるみたい……)


 龍一郎の背中をつかみ、息を殺さずにはいられなかった。


「すみません」


 殴られながら、龍一郎が静かに謝罪の言葉を口にすると、カランと床に杖が落ちる音が響く。


「ううっ……ううーっ……」


 顔を覆って、泣き出した老女の肩に手を置いた。


「琴乃(ことの)さん。お茶を飲みませんか。古河が銀座空也の最中を用意していますよ」
「最中……そんなことで機嫌を取ろうなんて……」
「嫌いですか?」
「いいえ……好きよ」

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